相続登記の落とし穴①

 先日、このようなお話を耳にしました。

相続による名義変更の事例

 父が亡くなり、相続人は母と娘である私の2人です。
 相続した土地についてすぐに売ろうと母と話しあい、遺産分割協議はせず、法定相続分で母が2分の1、娘である私が2分の1の割合で不動産の名義変更の登記を自分でしました。そしていざ売ろうとしたところ、不動産屋さんより、登記識別情報が必要ですといわれたのですが、私の登記識別情報(昔でいう権利証にあたります。)はあるのですが、母の登記識別情報が見あたりません。どうしてなのでしょうか・・・。
 

解説

 所有権について、法定相続分による不動産の名義変更の登記を行う場合、共同相続人の1人が代表して申請することが認められています(民法第252条ただし書)。今回のケースも娘さんが代表してみずから申請人となって不動産の名義変更の登記を行いました。そして登記が完了すると、登記官より登記識別情報が通知され、不動産を売る場合、この登記識別情報を提供することが必要になりますが、この登記識別情報が通知されるのは「その登記によって申請人自らが登記名義人になる場合」に限られています
 今回の場合、登記の名義人となるのは母親と娘さんですが、申請人は娘さんだけで、母親は申請人にならなかったとのことでした。そのため、申請人となった娘さんにだけ、登記識別情報が通知され、申請人にならなかった母親については登記識別情報がそもそも通知されず、ないという結果になりました。

 このように登記識別情報がなく、不動産を売却する場合、事前通知による方法(登記を申請後、登記官から売主の方に、「所有権移転の登記が申請されましたがあなたがこの登記の申請をしたのならば、一定期間内に登記官に申し出て下さい」、との通知が届き、売主の方が「本当に私がこの登記の申請をしました」と登記官に申し出ることで登記がされる方法です。)または資格者代理人(司法書士)による本人確認情報を登記官に提供すること等で登記を申請することになります。事前通知による場合、売主の方が2週間以内に登記官に申し出をしないと、登記申請手続が却下されてしまい、名義変更ができないというリスクがあります。

 法定相続分での相続の名義変更の登記の場合、遺産分割協議などなくてもいいため、自分で登記の申請をされる方も多いと思いますが、意外な落とし穴があったりしますので、ご注意ください。また気づいたことありましたら、②、③・・・と続けていきたいと思います。