相続の放棄について

 相続が開始すると、相続人は原則として被相続人が持っていたすべての財産を引き継ぎます。この財産には不動産や預貯金などの積極財産に加えて借金などの消極財産も含まれます。そこで不動産や預貯金などのプラスの財産より借金が多かった場合、相続人が借金を抱えてしまうことは酷であること、被相続人の財産を引き継ぎたくないと考える相続人がいることもあり、その意思を尊重する必要があります。そこで、相続人には被相続人の財産を引き継ぐか放棄するかの選択権が認められています。
 今回は、相続放棄の内容、手続き、効果について、まとめてみました。

内容

 相続の放棄とは、相続開始による財産を引き継ぐ効果を全面的に拒否し、初めから相続人でなくなることをいいます。

 相談会などで「亡くなったお父さんが持っていた一部の土地だけ放棄することができますか?」という相談を受けることがよくありますが、被相続人の一部の財産だけを放棄するということはできず、被相続人の一切の財産を引き継ぐか(承認)、引き継がないか(放棄)しかなく、例外として、相続した財産の範囲内で被相続人の債務を弁済し、余りがあれば相続できるという限定承認の制度があります。

手続き

 相続を放棄したい相続人は、「自己のために相続が開始したことを知ってから」3ヵ月以内に、家庭裁判所にその旨を申述しなければなりません。 
 「相続放棄申述書書式例」(裁判所)

 相続放棄申述書を家庭裁判所に提出してから、その申述が相続放棄者本人の意思によるものか確認するため、家庭裁判所から放棄者に照会書が郵送され、それに回答することで、家庭裁判所が相続放棄の申述を受理するか否かの審判が行われます。
 自分で行った場合、費用は郵送料などで約3,000円ほどになります。

 ここで例えば、
 ①被相続人とまったくの疎遠になっており、亡くなっていることを何年間も知らなかった場合、
 ②被相続人が、すべての財産を処分したので財産は全くないと相続人に前もって伝えて亡くなり何も手続きをしなかったが、数年後、被相続人名義の不動産が発見された場合、
 相続の放棄をすることができるか問題になることがあります。

 この点、「自己のために相続が開始したことを知ってから」がいつの時点になるか問題になりますが、最高裁判所は「原則として、相続開始の原因たる事実(被相続人の死亡の事実)を知り、かつ、これにより自己が法律上相続人となった事実を知った時をいうが、この各事実を知った場合であっても、3ヵ月以内に限定承認または相続放棄をしなかったことが、被相続人に相続財産がまったく存在しないと信じたためであり、そのように信ずるについて相当な理由があると認められるときは、3ヵ月の期間は、相続財産の全部または一部の存在を認識した時または通常これを認識できる時から起算すべきである」としています。

 すなわち、上記の①の場合には被相続人の亡くなったことを知った時から、②の場合は被相続人の死亡の事実と自分が法律上相続人となった事実を知り、かつ相続財産がまったくないと信じていたことに相当の理由があり、財産の存在を認識したときから3ヵ月以内であれば、相続放棄をすることができます。
 そのため、場合により、被相続人が亡くなってから、何年か後に相続放棄の手続きをする、ということも考えられますので、財産がまったくないと思っていたのに、急に財産が出てきた場合にも落ち着いて対応することが大切です。

効果

 相続の放棄をすると、その相続に関しては初めから相続人とならなかったものとして扱われます。
 また、原則としていったんした相続放棄は撤回できません

 例外として、例えば、だまされたり、うそをつかれて相続放棄をした場合には相続放棄の意思表示の取消しを、認知症などで意思能力がなく相続放棄をした場合には相続放棄の意思表示は無効になります。この相続放棄の意思表示の取消しについては、追認することができる時から6ヶ月間、放棄をしてから10年間、何もしないでいると時効により消滅してしまいます。

 また、相続放棄をした場合、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、次順位の相続人または相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならないことに注意が必要です。この点は令和5年4月1日より改正されました。


 相続が発生すると様々な手続きで3ヵ月はあっという間にきてしまい、相続を承認するか放棄するか判断する間もないことも多いと思います。できれば、早めにエンディングノートなどを利用して、財産目録などを作成して、それを推定相続人と共有しておくことも大切だと感じています。
 手続きについて、知りたいことなどありましたら、お気軽にご相談ください。